Fall

fall:秋、という言葉の響きが好きだ。落ちる。緩やかに、冬の奈落に向かって落ちる。そんな意味合いを仄めかすような、この英単語が好きだ。少しずつ枯れていく木々を見つめながら、少しずつ色褪せていく空気に纏われながら、世界が密やかに、されど確実に…

裏庭程度の逃避行

- あの日の約束 - いつも百合のように微笑んで嵐のようにたくさん話してじっと押し黙ったままの誰かを太陽のように慰める そんな君を見ていて思うことはきっと周りの様子に気を配るひとほど過去に傷ついたことがあるひとほど諸刃の剣のような優しさを持つひ…

さよならムーン・チャイルド

長い時間をかけて、失恋をしたのだと思う。 梨果のように。でも、そもそも失恋とはそういうものなのだと思う。特に私のように、激しい感情や大きすぎる愛によって動くのではない人間にとっては。冬の陽だまりのような恋に触れて、微睡んだまま無為に午後を過…

夢について憶えていること

私にとって夢とは、自分にものすごく密接しているものだ。白昼夢をよく見るし、幻想と夢と現実を混ぜてしまうことも少なくない。私には、現実に生きている感覚があまりないのだと思う。あえて分ける必要性も感じない。どうせ、夢も幻想も現実の一部だもの。 …

伯爵令嬢になりきれない

大学に、親友と呼べるひとはひとりしかいない。 襟足をばっさり切ったショートカットで、美人で、素直なひと。本人に伝えたかどうか忘れたけれど、はじめて大学生としてキャンパスに足を踏み入れたオリエンテーションのとき、通路を挟んで隣に座っていた彼女…

ムンクの思春期と心臓の悪い魔女

私は仄暗い子どもだった。 小学生のときからずっと勉強を強要されてきたからかもしれない。私のような子どもは少なくないだろうけれど、父が東京で一人暮らしをしている私の家庭では、母の存在が絶対であり、私は母がなによりも怖かった。 深夜二時まで母に…

月明りの射す寝室で背表紙を撫でるとき官能的な気分になるのは何故なのだろう

TwitterやInstagramでは最近、#BookCoverChallenge というハッシュタグとともに素敵な本がたくさん紹介されている。日本語で #7日間ブックカバーチャレンジ ともいわれるこのチャレンジは、読書文化の普及に貢献するためのもので、好きな本を7日間にわたって…